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大阪高等裁判所 昭和52年(ラ)437号 決定 1979年2月19日

抗告人 井原正夫

右代理人弁護士 中島三郎

被抗告人 破産者岡義建設株式会社破産管財人 的場悠紀

第三債務者 足立豊子

<ほか五名>

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  記録によると、抗告人は破産者岡義建設株式会社との間に手形貸付・割引及び消費貸借等の取引契約を締結し、同社は右取引から生ずる債務を担保するため、昭和五〇年一月三一日その所有する別紙物件目録(1)ないし(3)の物件について極度額四〇〇〇万円の根抵当権を設定し、同年二月一日その登記を経由し、同年三月一九日その所有する同目録(4)ないし(6)の物件について極度額五〇〇〇万円の根抵当権を設定し、同月二〇日その登記手続を経由したこと、同社は右(1)ないし(3)の物件につき右根抵当権設定登記後これらを第三債務者足立、太田、水本らに期間二年でそれぞれ短期賃貸し、(4)ないし(6)の物件については右根抵当権設定当時既に第三債務者石原、斉藤、川原らにそれぞれ賃貸していたこと、同社は昭和五二年二月九日破産宣告を受け右根抵当権の被担保債権が確定したので、抗告人は別紙目録記載の債権をもって右各物件について競売を申立てたことが認められる。

抗告人は破産者が右各物件を第三債務者に賃貸したとして右根抵当権の物上代位により、今後毎月生ずべき別紙記載の賃料につき差押及び取立命令を申立てた。

2  ところで、抵当権は使用収益権限のない非占有担保権であるから、原則として、目的物利用の対価は抵当権の把握する目的の範囲外であり、したがって、これらが抵当権による物上代位の客体となりうるものでなく、抵当権の目的物自体の滅失・毀損等の物理的原因によりその全部又は一部について抵当権を行使できなくなったとき、又は抵当権設定後の第三者に対する賃貸により目的物自体の担保価値の一部が喪失したときなど、当初確保した担保価値の全部又は一部が滅失ないし喪失した場合に限り物上代位を認めるものと解すべきである。

ただ、民法三九五条所定の抵当権設定登記後の短期賃貸借については、その期間が短期であり、かつ、賃料が合理的であるときには、これを抵当権者に容認させて所有者の使用収益を維持させようとするもので、抵当権の本質に基づき所有者と抵当権者との利益の調和を計ろうとするものにほかならないから、右賃料について抵当権者の物上代位を認めることはできない。もっとも、この点につき抵当権の目的物件を賃貸してその対価を収受することは抵当権の交換価値の一部を実現することであるから、これについても物上代位を否定する理由は存しないとする見解があるが、右見解は抵当権設定者に目的物件の利用権を認めないというに等しく、前記抵当権の性質に反するものであって、とうてい従いえない。

したがって、抵当権設定当時既に目的物件について賃貸借がなされているとき、又は抵当権設定登記後に短期賃貸借がなされたとき、抵当権者は右各賃貸借の対価である賃料について物上代位権を行使できず、民法三七二条で準用する同法三〇四条所定の賃料中には右賃料を含まないものと解すべきである。

3  これを本件についてみるに、抗告人が抵当権者として物上代位権を行使しようとする賃貸借の対価が、抵当権設定以前になされた賃貸借に基づくもの及び抵当権設定登記後の短期賃貸借に基づくものであることが、前認定の事実から明らかであるから、抗告人において右各賃貸借の対価について物上代位権を行使しえないものということができる。

4  そうすると、抗告人の本件申請を却下した原決定は相当で本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村瀬泰三 裁判官 高田政彦 弘重一明)

<以下省略>

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